第7章 陸ノ刻~荒んだ過去~
今から千年ほど前―
総隊長・山本元柳斎重國先生が設立した、現在では二千年の伝統と格式を誇る死神の育成機関、真央霊術院。今の真央霊術院と制度は多少異なるが、大体は同じだ。教育課程は基本的に6年であり、学院の入学試験で優秀者は、第一組"特進学級"と呼ばれる組へ配属される。
千年前の特進学級には、現在の八番隊隊長、十三番隊隊長、八番隊第五席が在籍していた。
誰よりも思慮深く、真実を見通す力に優れていた"京楽春水"
驚異的な実力と明るく温和で義理堅い性格を持ち、広く慕われている"浮竹十四郎"
誰とも関わりを持とうとせず、一匹狼ながらも確かな実力を備えていた羞月閉花"神崎懍"
優良生徒が集まるこの特進学級でも、特にこの3人が、いい意味でも悪い意味でも目立っていた。
(つまらないな…)
窓からは鉛色の空が私を見下している。うざったい騒々しいヤツらの声が耳に残る。ひそひそと私の噂話をする女たちの声。…この場所の全てが嫌いだ。ただただ意味の無い時間を過ごしているとしか思えない。
京「懍ちゃーん! 今日も綺麗だね。黄昏て外を見るその姿、何とも形容し難い儚さ…」
「………」
京楽春水。私を真央霊術院に誘った張本人だ。見るからに軽薄そうだが、人を見る目があるようで、私の"妙な能力"を見抜き、死神として正しい力を得て役立てないか、と誘われた。
浮「京楽…この女性が…」
京「ああ、例の"神崎の巫女"さ」
浮「初めまして、俺は浮竹十四郎」
「…知ってる。京楽がずっと話してたし…明るく温和でいい奴だって」
浮「そ、そうだったのか。俺もキミのことは知っているぞ。神崎懍…無愛想だけどいい奴だって」
「…そう」
浮「……」
少しの沈黙がこの場を包む。私は特に何とも思わない時間だったが、浮竹という白髪の男は気まずそうな顔を浮かべていた。そんな沈黙を破ったのは、先生の声だった。
『おーし、席につけお前ら。授業を始めるぞ。3秒以内に席につけ。3秒経ったら蒼火墜の刑だ』
今日も意味があるのか分からない時間が始まる。先生の声を右から左へ受け流しながら、曇天を見上げた。