第5章 肆ノ刻~一時の平和~
良い意味で男くさい十一番隊隊舎では、未だに私に語り掛ける輩がいた。
「俺と一緒にデートして下さい!」
「抜け駆けは許さねぇぞ!俺の方がコイツよりも良いと思いますよ!」
「俺を弟子にして下さい!」
「俺を下僕にして下さい!」
「何でもいいので踏んで下さい!」
(十一番隊って女子が居ないから、色々拗れるよね…。なんか分かる気がする)
そう思いつつ、私の前でひれ伏す隊士の頭を踏みつけながら、剣八の方を見た。
“更木剣八”
代々十一番隊の隊長は剣八が取りまとめるしきたりになっている。何代目の剣八かは分からないが、確実に今までの剣八よりも強い。そんな気がした。彼の斬魄刀からは何も感じられない。つまり、名前が無い斬魄刀…。
(始解すらも会得していないで隊長になれた死神って、尸魂界史上初じゃないか?)
それで、先代剣八を討ち負かしたんだ。それは相当の猛者だろう。
「ああ…もっと強く踏んで下さいぃ!」
「できれば生足でお願いします!」
私はヤバイくらいに拗らせた十一番隊の隊舎をあとにした。
十二番隊舎
(喜助くん…)
外見はあまり変わっていなかった。喜助くんが残した技術開発局も健在。今は、十二番隊隊長“涅マユリ”が技術開発局局長を務めているようだ。
マ「何だネ。私は今忙しいのだヨ!」
「いえ…その、八番隊第五席神崎懍。涅隊長へご挨拶をと思いまして」
マ「その程度のことで私を呼び出したのかネ。非常に腹立たしいヨ」
「すみません。では私はこれで…」
マ「待ちたまえヨ。貴様、実験台になるつもりはないかネ? 貴様の実力は相当のものと見たヨ」
やっぱり危険な人だった。実際、蛆虫の巣から引っ張り出してきたんだ。勿論それはヤバイ人だろう。
「…何をするつもりですか?」
マ「口答えするものじゃないヨ。さァ来たまえ」
何をするつもりかは分からないが、命に関わることだったらこの隊長を下してでも逃げれば良い。涅隊長の機嫌を直す為に、嫌々ながらついていくことにした。
マ「この台の上で寝たまえ」
「は?」
マ「五月蝿いヨ。ネム」
ネ「はい。マユリ様」
呆気に取られていた私は、突然現れた女性死神に対処できず捕らえられ、台の上で横に寝かされた。