第3章 弐ノ刻~牧歌的日々~
「《棒》ですか。それが私の新しい相棒なんだですね」
兵(……なんじゃ?)
「ありがとうございます。また私の斬魄刀に“名を与えてくれて”」
兵「…なに?」
「いや、私の斬魄刀は私に似て気分屋みたいで…。私がやる気を出しても“彼女”がやる気出してくれなきゃ、本来の力は発揮しないんです」
兵「彼女…じゃと?おんしの斬魄刀は《棒》。性別もない無機物じゃろうに」
「確かにそうかもしれません。しかし、兵主部さんは今《棒》という斬魄刀を与えてくれた。それだけで充分なんですよ」
兵「回りくどいのう。端的に申せ!」
「端的にだってさ。《雷切》」
私が名前を呼んだ時、兵主部は具象化した雷切に斬られた。
兵(馬鹿な…)
血飛沫を散らしながら片膝を付く。
兵「どういうことじゃ…。わしは確かに《棒》と…」
「そうですよ。だから『ありがとうございます』と言ったじゃないですか。あなたが“黒”を力とするなら、私の斬魄刀《雷切》は“電子”」
“雷切”
別名、雷神と呼ばれる彼女はこの世界全ての電子を取り込む力を持つ。それを、何十倍もの威力を持つ"電気"に変換する。今私たちが触れている空気も電子が含まれている。そう、全てを取り込むのだ。冬が近づくと、ドアノブにバチッとくる静電気すら、彼女の手にかかれば最強の武器となる。ただ、私が彼女の名前を呼ばない限りやる気を出してくれないのが弱点。卍解を会得している者は、解号なしでも始解出来るのに…。
兵「じゃが、わしが名を与えたことに、何の意味がある?」
「名が無い斬魄刀はゴミ同然。私ですら、上手く扱えるか分かりません。ただ、名を与えたことによって"名を呼ぶこと"ができるようになりました」
兵(…?)
「名を呼ぶということは、名を呼ぶ音を空気に乗せるということ。あなたが《棒》と名付ける時、僅かな電子が生じ、彼女自身が『しら筆一文字』の力を相殺したんですよ」
兵「そんなこと、出来る訳が…」
「できますよ。だって私は《武神》ですよ。一対一の力の勝負に勝てるとでも?」
兵「……!」
「ただ、名を消された時は少し焦りましたけどね」
私は、私の斬魄刀を上に掲げた。
「我に伏せ《雷切》」
勝負が決したのはたった一太刀だった。