第3章 弐ノ刻~牧歌的日々~
兵「ふん。油断したわい」
卍禁太封を喰らってもなお変わらない、肝が据わった態度に息を呑んだ。
(…せめてかすり傷程度でも…と思っていたけど、ほとんど無傷なんて…)
「…破道の九十“黒棺”!」
漆黒の棺で兵主部を封じ、切り刻む。
(せめてこれで少しでも…)
九十番台の破道の詠唱破棄。完全な力ではないが、これでダメージを与えられなければ、もはや打つ手なし。
しかし、願い虚しく…。
兵「やはり、おんしの力は素晴らしいものじゃ。ただ、鬼道ごときで倒せるほど、わしらは柔くないぞ」
(…!)
慢心していた訳ではない。油断していた訳でもない。ただ、無傷で立っていたことに驚いた。
兵「どう思うておる。わしに傷つけられなくて不思議か?」
「…チッ」
兵「そんな顔をするな。確かに素晴らしい力じゃった。じゃが“黒棺”はいかん」
(…?)
兵「わしの力は“黒”。あらゆる世界の“黒”はわしの力になる。おんしの強力な黒棺は、わしに強力な力を与えてるに過ぎん」
迂闊だった。墨をばら撒く斬魄刀。考えれば分かる筈だったのに…。
兵「もう終わりか?…ではこちらから行くぞ」
兵主部は飛竜乗雲の如く、こちらに向かって来た。斬魄刀は使えない。鬼道も効果なし。万事休すか…。
(いや、そんな筈はない。弱点は何処かにある)
三十六計逃げるに如かず。私は悠々と攻撃を交わしながら、兵主部の弱点を探った。
兵「ふん。逃げてばかりか…。仕方ないのう」
(なに…?追うのを止めた…?)
兵主部は私を追うのを止めて、斬魄刀を上に掲げた。
兵「真打《しら筆一文字》」
(…斬魄刀が筆に…?)
兵「しら筆一文字。まあ、卍解のようなものじゃろう」
“しら筆一文字”
世に卍解が生まれるより遥か昔、最初に生まれた“進化した斬魄刀”である。
兵「この刀は一文字で塗り潰されたものに新たな名を刻み込むことができる」
そう言った瞬間私の背後に立ち、私の塗り潰された斬魄刀に名を刻み込んだ。
《棒》
兵「さて、それがおんしが持っている斬魄刀じゃ」
「……」
兵「恐ろしくて声も出ぬか。無理もない。おんしはこれから、その《棒》と共に歩んでゆくのじゃからな」
「……」
兵(…何じゃ?…何故霊圧が増幅している?)
「……ふふっ」