第3章 弐ノ刻~牧歌的日々~
兵「おんしはやはり強い」
「はあ…何を唐突に…。ありがとうございます」
兵主部一兵衛。
尸魂界の名付け親。“卍解”を名付けたのも彼。
通称、和尚と呼ばれている零番隊のリーダー的存在。
兵「そういえば、わしの宮殿に来てもなお、飄々として立っておったのはおんしが初めてじゃ」
「霊子の密度が濃いですからね。最初は息を整えるので精一杯でしたけど」
兵「普通は立つことすら困難なんじゃが」
時は遡り、零番隊入隊の頃。
『武神の実力を知りたい』と五人が押し掛けて来た。簡単に実力が分かる方法、つまり手合わせを行った。
相手は兵主部一兵衛だった。手合わせと言っても、真剣を使った勝負。負けることは許されない雰囲気の中、手合わせは始まった。
“一文字”
彼の斬魄刀。一言で言い換えるなら、墨。一文字で塗り潰されたものは名を失う。斬魄刀でさえも。
兵「黒めよ《一文字》」
(妙だな…。斬魄刀から霊圧を何も感じない…)
兵「不思議かね?」
「……」
兵「この斬魄刀から何も感じないとでも?」
「奇妙な形だな、と思っていただけです」
兵「そうか。何も思わないならばそれで良し。ただ、零番隊、霊王の眷属たるもの油断は禁物」
(…来る!)
一文字と呼ばれたその斬魄刀は、墨をばら撒きながらこちらに向かって来た。
筆のような見た目の斬魄刀を、私の雷切で受け止める。
兵「ふん。斬魄刀で受け止めたな?」
「えぇ…。それがどうし……っ!?」
(雷切から何も感じない…!?)
兵「気付いたかね?…おんしの斬魄刀に"名が無い"ことに。悟ったかね?…その名も無き斬魄刀で、わしを傷つけることすら出来ないことを!」
「…縛道の九十九“禁”!」
兵(九十番台詠唱破棄じゃと!?)
「斬魄刀が無くても、私自身がある。ならばソレを使うまで!」
名を潰された雷切だったものを鞘に納め、自らの霊力で戦う。一か八かの大博打にでた。
「初曲“止繃”!」
白い布で兵主部をくるむ。
兵(馬鹿な…。第二番“卍禁”!?)
「弐曲“百連閂”!」
止繃で包んだ全身の上から、針状の棒を上半身に刺す。
「終曲“卍禁太封”!」
大きな立方体の岩が兵主部の上に落とされる。並の死神ならば圧迫されて、戦闘不能になるが…。