第12章 おはようの挨拶より最優先
柔らかな微睡みの空気と香りが心地好い。
意識がどこか深い底へと引っ張られていくように沈んでいく感覚もこの上なく魅力的だ。
ああ…多分あと数秒で思考する力もなくす…そしたらこのまま彼の腕の中で幸せな二度寝を堪能しよう…
…だって琉夏ちゃんの腕の中はこんなにあたたかくて、こんなにも安心出来るから…
「……琉夏ちゃん…だいす…」
キキィィ――ッ!!
「ッッ――!?」
あと一歩で落ちかけていた意識と目蓋が鋭い耳障りな音で一気に持ち上がった。
突然の音に思わず身体がビクリと強張り跳ねてしまったけれど、相変わらず琉夏ちゃんは規則正しい呼吸を繰り返していく。
窓の外から聞こえた自転車のブレーキらしき甲高く苦しげな音を恨むべきか感謝すべきか悩みつつそっとため息を吐いた。
「はあ…これはきっと神様が起きろって言ってるんだろうな…」
今日は久しぶりにバイトも休日で、デートの日。
昨晩遅くアンネリーの仕事を終えて帰宅した琉夏ちゃん。寂しかった時間を埋めるようにシーツを乱し部屋の湿度を上げた後、ゆったりとした疲労感の中二人で今日のプランを話していた。
手を繋いでウィンドウショッピングをしてもいいし映画を観てもいい。爽やかな秋の陽射しを感じるカフェテラスでランチもいいかもしれない。そんな恋人同士の普通の一日、想像しただけで心が弾み出しそうだった。
そしてその胸のウキウキ感が鮮やかに心に甦り、私の目蓋を重くしていた微睡みを一気に醒ましていく。