第3章 貴方のヒーローはいるのに 私のヒーローはいない
07 じぶんだけの、ひーろーを
私はその日、マキノさんに頼まれたものを市で購入し、ある程度の仕込を手伝ったあと山へ来ていた。マキノさんに好意は受け取って良いと言われたあの日から、あの酒場に居ることが少しだけ苦痛になっていた。良くしていただいているのに、こんな風に考えてしまう自分が酷く情けなくて、けれど自分を変えるには月日が経ちすぎていて、結果的に山でエースくんやサボくんと過ごしていたのだ。
いつもと同じように、今日も終わると思っていた。けれど、なんだか海がザワザワと騒ついている気がする。なんとなく、だけれど。
「…シャンクスさんたちが、帰ってきたのかな。」
そう、1人呟く。今日はあの2人は来ていない。熊でも狩りに行っているのだろうか。
そのまま1人、芝生に寝転がる。山に来たはいいが、妙な胸騒ぎがして個性の特訓をする気にならなかったのだ。寝転がりながら、手短にある花を一輪、手折る。
「還無!!」
手折った花を眺めていると、私の元へベックさんが走ってきた。驚いて彼を見ると、この山を駆け上がってきたのだろう、息切れして顔には汗が浮かんでいる。
「よくここがわかりましたね。」
「…お前の気配を読んだだけだ。それより!ついてきてくれ!!」
気配を読んで、誰が何処に居るのかもわかるのか。是非ともご教授願いたい。
なんて考えているうちに、私はベックさんに抱え上げられていた。
「ちょっ、ベックさん!?」
私走れますよ!と彼に続けて話すが、この方が早い、とだけ言って駆け出してしまった。
「…ッ、きっついんですけど!」
「黙ってろ!舌噛むぞ!」
よっぽど急いでいるのか、彼は山を駆け下りていった。
抱え上げられるといっても、彼の右肩に腹を乗せる形で連れて行かれているため、大分腹が痛い。けれども、そんなことを言うことができないくらいベックさんは焦っている様子だった。
そして、連れてこられたのは彼等の船。