第3章 貴方のヒーローはいるのに 私のヒーローはいない
「………え?」
「そうだろう?お前は、おれを救ってくれたンだ。ヒーローを目指す、って言ってるが、おれにとっちゃもう充分ヒーローだ。」
だから、んな顔すンな、とまた髪を梳く。私はまだまだ子供で、自分すら救えない未熟者で。ヒーローになるために、敵と戦うために個性を磨いているのに簡単に捕らえられてしまうほど弱くて。
でもそんな私でも、誰かをすくうことが、できたんだ。
「…目は、大丈夫なのか。」
シャンクスさんの言葉を咀嚼して噛み砕いて自分の中に落としていると、目のことを尋ねられた。当然だろう、血の涙を流したのだ。
「大丈夫です。個性を使い過ぎると、ああなるんです。寝たり食べたりしたら、回復しますよ。」
「使い過ぎるとああなるのか?」
「個性も身体機能のひとつですからね。酷使すれば、なんらかの異常はでます。」
だからこそ、個性を伸ばすよう努力しているのだが。そうとは告げず、酷使した目を押さえる。
「…なら本当にありがとうな。そこまでして、使ってくれて。」
「これは私がまだ未熟者の所以です。お気になさらず。」
そうは言ってもなァ…と呟くシャンクスさん。一体何が気に喰わないのだろうか。
「そうだ!これから宴をやろう!!」
「は?」
「マキノさんところでやろうぜ!!」
「それはいつもと変わらないのでは…?」
「還無への礼も、回復も兼ねて!」
ちなみにお前、丸一日寝てたからマキノさんには話しておいたぜ!と突然爆弾を投下される。
意識を失って数時間のつもりでいたぎ、まさか丸一日眠っていたとは考えもしなかった。成る程確かに身体が固まっている気がする。
シャンクスさんは何を思ったのか私を横抱きにして持ち上げた。
「ちょ、何するんですか!」
「何ってお前、病み上がりだろ?もってやるよ!」
「いいです病み上がりを思うなら宴を止めましょう!」
「いーや、宴はやる!もう決めた!」
ベックー!と私を抱えたまま部屋を出て歩き出すシャンクスさん。
「還無、」
「…はい?」
恥ずかしさのあまりから、顔を伏せてやり過ごそうとしていたが名前を呼ばれ顔を見る。
「還無、お前はおれのヒーローだ!!」
そんな、溢れるばかりの笑顔で。
(20191101)