第3章 貴方のヒーローはいるのに 私のヒーローはいない
「ただいま、マキノさん。」
エースくんとサボくんに私の夢を話したあと(彼らは馬鹿にすることなく、応援してくれた)(私のなりたいヒーロー、)山を降りてマキノさんの酒屋へと戻った。
「あらお帰り還無ちゃん。シャンクスさんが探してたわよ?」
「あー…逃げたんです、シャンクスさんから。」
「ふふふ。さっき航海にまた出たようだから、一緒に行きたかったのかしらね。」
もしくは航海の前に、貴方に会っておきたかったのかしら、と素敵な微笑みを浮かべたまま話すマキノさん。
……あの人は、私の目を見たいだけですよ。とても楽しそうなマキノさんに対し、心の中で返事をする。
「還無ちゃんも、もっと物事簡単に考えていいと思うよ?」
グラスを磨きながら、私に告げる、
「今までに何があったのかはわからないけれど、人からの好意は受け取っても良いと思うの。」
マキノさんだけじゃなく、シャンクスさんも、ベックさんも、ルフィくんも、エースくんやサボくんも、みんなみんな、私の幼少期を知らない。私が壁を作ってることをなんとなく感じるだけ。…そんなの当たり前だ。1Aの皆だって、知らないことだ。………緑谷くんのように、轟くんのように、踏み越えてくる人はいたけれど。
ひとはにがて。だってだれも、たすけてくれなかったもの。ひーろーがあふれるせかいで、へいわのしょうちょうが、いるせかいで。
だから私が強くなるしかないの。私が強くなって、誰も、零れ落ちることのないように。
「…そうですね、考えておきます。」
かなりの間を開けて、マキノさんに返事をした。
ここで何か応えたところで八つ当たりにしかならないと思ったから。
「……ごめんなさい、部屋で休みますね。」
「…うん、お疲れ様。」
私はそのまま、借りている部屋へと逃げた。
そして、事件が起きる。
(20191027)