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【OP】掌の隙間から水が零れ落ちるように、

第2章 いつだって神様は 私に微笑んでくれたことはなかった



05 なのにあきらめきれずに、



 ルフィから話を聞いたときは、退屈凌ぎにはなりそうだ、とそれくらいにしか考えていなかった。東の海にあるフーシャ村を拠点に航海を続けてどれくらい経っただろうか。そろそろこの拠点を離れ、次の航海へ身を投じても良いかもしれないとベックと話してもいた。
 そんな中、降って湧いて出た不思議な女。俺と10は違うであろう若い女。そりゃあ興味が湧くってのが海賊ってもんだ。若い頃から航海をしているが、そんな不思議な女に自らが立ち会って出会ったことはない。だからこそ、女ー 還無 の話をたくさん聞いた。還無が言うには、どうやら別世界から来たようだった。ヒーローなんてものは、この世界にはいない。海軍がその役割を果たしている、まあ、おれら海賊にとっては還無が言うヴィランは、海軍でしかないが。

「…頭、あの還無という女のことを考えてるな?」
「……そんなに顔に出てたか?」
「ああ。いつもの悪い顔だ。」
「しっつれいだな!ベック!!」

 還無と出会った日の夜、船に戻って酒を一人甲板で呷っていたときだ。ベックに話しかけられ、思考を読まれた。

「頭が何考えてんのか予想するのは、女を相手するよりも簡単なことだ。」
「…それは、おれを褒めてんのか貶してんのか。」

 褒めてるよ、といつものように煙草に火を付けるベックを横目に、また一口、と酒を口に含む。

「還無…不思議な奴だよなあ。」
「不思議?」
「ああ。…ヒーロー目指してる、なんて言いつつ、誰かを救うより自分を助けてほしい、みたいな顔してるだろ?」
「いやそんな顔はしてなかっただろ。」
「そうかあ?」

 あの眼は、孤独を知ってる眼だった。経済的に不安定な島でよく見かける、そこらの子供と同じ眼だ。

「…虚勢張ってるのはわかるな。だが仕方がない、まだ16とか言ってなかったか?」

 普通のその年頃の女なら、家でぬくぬくと過ごしているだろうと続けるベック。ベックが言いたいこともわかる。けれど、

「それだけの理由でも、ねえ気がすんだよな…。」
「…まあ考えるのは良いが、深入りするなよ。」

 それだけ言うと、船内へ戻っていった。
 おれが今日出会った還無という女について、今の疑問を解き明かすのは、まだ先のことだった。


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