第2章 いつだって神様は 私に微笑んでくれたことはなかった
あれから町や酒屋で還無を見かけるたびに話しかけた。そして、個性を見せてくれと頼み込んだ。興味のあるものを、そのままにしておけるほど、おれは落ち着いていないと自分でもわかっている。その度に、還無には袖にされた。
「あれ、マキノさん、今日は還無いねえのか?」
「シャンクスさん、こんにちは。還無ちゃん、ずっとよく働いてくれたから今日は一日お休みをあげたんです。」
その日から還無は休みの日、どこかへ出かけるようになったとマキノさんから聞いた。おれは還無と顔合わせたときに、何処に行ってるんた?も聞いたことがあった。それに対してあいつは、話す理由がないと一蹴してきた。このおれをあしらうとは、なかなかいない女だ。とふざけたことを考えていられるほどには、そのときは余裕があった。
その余裕が崩れかけたのは、
「お前、目が…」
あの、目を見たときだ。
還無の目には、月が浮かんでいた。もともと深い藍色の目で、夜空みたいな、濃い海のような目だ、と思っていた。そんな目に、月が浮かんで見つめられたと思ったら服を乾かしたのではなく、おれの刻を、戻したと言う。
なんてことのないように言う還無の、深い藍色の目に影を感じた。そしてその目に、もう一度月を浮かべてほしいとも思った。……おれは、還無の目に、どうしようもないくらいのお宝を感じてしまったんだ。
その目が、欲しい、と。
好きとか嫌いとか、そんな綺麗な感情ではなく。ただ、その物珍しい目が、欲しいと思った。還無がどうこう、ではなく、その美しい目が。
だがそんな感情を、表に出すわけにはいかない。目が欲しいだなんて、人として倫理に欠ける事案だ。
「…すっげーーー!!お前、そんな力あったのか!!」
だからこそ反応は遅れたが、いつものようにテンションを上げて発言した。ベックが横目でおれを見ているのがわかるが、気にしている余裕はない。
おれの海賊としての血が、騒いでいるのがわかるからだ。還無が、還無の個性が、治癒能力がある、そんなもんじゃない。いやむしろ、まだそっちの方が良かっただろう。
おれは、あの目が欲しい。おれを見つめる、あの月が。
(20191026)