第1章 君の音色/志水
彼女は普通科の2年生。
日野先輩の友人です。
彼女とは先輩を通し、何度か話をしたことがある程度で...僕とはそこまで“親しい”という間柄ではありません。
人を覚える事が苦手な僕が...
たった数回、話をしただけで強く記憶している不思議な人。
けれど、それより不思議なのは…
日野先輩の“音”を聞く度に思い出す“ある人”の姿…
そう、
それが、邑林先輩なんです。
けど、今はそれより気になる事があります。
邑林先輩って…、
…チェロ弾けたんですね。
普通科の方にも結構いるのかな?
日野先輩に限らず、土浦先輩も“そう”だったし。
邑林先輩は、弦を弾く事に夢中で僕が屋上へ来たことに全く気付かない様子です。
邪魔をしてはいけないと思い、出来るだけ静かに扉を閉めるよう心掛けました。
当初の目的だった自分の練習は…
邑林先輩の奏でる音を聞いてしまったから…かな?
もっと、その音を聞いていたくて…
弾く気になれませんでした。
僕は、木を囲うようにして置かれているベンチへ近づき、チェロを地面へゆっくり下ろし、腰掛けると…
短く刻むメロディーに耳を傾け、目を閉じた。
あれ?この曲…
前回のセレクションで僕が弾いた曲の一節だ。
はっ、と気付いた時、ギュンと無い音が交じる。
『Σっ、あー...また間違えちゃった…んー、何でこぅ…上手く弾けないかなー。』
先輩は呟きながら楽譜へとチェックを入れていく。
『…志水君みたいに弾きたいのに。』
……?
僕…みたい、に?