第2章 君の歌声/土浦
『……土浦。』
「…?」
“つっちー”と呼ばない事に反応して、手を止めて目をやる。
『ごめん…』
ピアノに背を預けている為、顔は見え無いが…向けられた背中は、そのままの表情を物語っているように感じた。
「何で、お前が謝るんだ?」
『…私の事で心配かけたし…練習も結局、邪魔しちゃってるし…さ。』
下がっていく頭部を見て、チクリと胸が痛む。
(自分の事で手一杯のくせして…馬鹿な奴。俺の事なんて…)
パコッと頭を叩く。
「…お前がそんな調子だとこっちが調子狂うんだぜ?自覚あるなら、練習させろよ。」
いつもの憎まれ口。
けど、これでいい。
変に気を使ってしまったら、コイツはまた気に病むだろうから。
『むー、普通、このシュチュエーションは優しく労るとこでしょー?』
「したら頭に乗るだろ?」
『Σ確かに!?』
「納得するのかょ。」
『あはは、…ねー、つっちー』
「ん?」
『…志水君はね、人を覚えるのが苦手なんだけど…望ちゃんの事は、たった1回会っただけで覚えちゃってたの。でもって、その時から望ちゃんを見つめてる事が多くなって…凄く優しい表情をするんだー…猫が目を細めるみたいに、嬉しそうに。』
「……。」
『それに気付いてから…自分をアピールするのをやめたの。』
「…そっか。」
少し後悔した。
安易に聞いたが、來村は、とっくに諦める準備をしていたから。