第2章 君の歌声/土浦
用意された楽譜を受け取り、ピアノ台へと広げる。
──ポロン…と、鍵盤の音を出せば來村の表情が落ち着いたものへと変わった。
──Amazing Grace…how sweet the sound…
楽譜を見ながら、淡々とピアノに合わせていく歌声。
その声はとても繊細だ。
曲のせいもあるが…
とても、神聖なモノのように感じた。
普段はふざけて暴れ回っているじゃじゃ馬娘が…歌わせると、その姿は無く、凜とした出で立ちとなる。
小さな体は、いつもの何倍も大人っぽく見え、想像もつかない程の存在感を発揮する。
プロのオペラ歌手のよう、とまで世辞は言わないが…歌はかなり上手い。
この学校の音楽科の連中にも劣らない実力者なんじゃないのか?と、思わせる程。
正直、俺はコイツの歌う声や姿勢が好きだったりする。
去年クラスが一緒だった事で、体育祭や文化祭…音楽の授業と、來村の歌声は何度か耳にする機会が多かった。
そして、感じた。
“歌う事が何よりも好きなのだ”と。
情熱的な想いが、メロディーとなって響き伝わってくる。
(…だから、か。)
普段弾きもしない清麗的な曲でも、來村が歌うのであれば弾いてもいいと思ってしまう。
──だが、今日はやけに感情的だ。
(…心の整理ができて無い、か。)
俺は鍵盤をたたくのを止めた。
──~The hour f……?
乗せる音が無くなり、來村も歌がストップする。
コイツは“そんな事”とか言ってたが…
やっぱ、無理をしているんだと思う。
そんな姿を目にすれば、いくら俺でも気になるワケで…。
歌の練習をするなら、この際スッキリさせる為にも、明確にさせておくべきだと思った。