第19章 温かな感触。(巻島目線)
自宅の最寄駅で富永に起こしてもらい電車を降りる。
そして自宅までの道を進んでいると突然道端にいる女性に
『お母さん、ただいま』
と、富永が話しかける。そしてその女性も笑顔でおかえりと言葉を返す。
その瞬間、この女性が富永の母親であることを理解し挨拶をしようと一歩前に出た。
すると、富永母と話していた女性が突然俺の名前を呼ぶ。
「あら、裕介」
そう俺を呼んだ人物は俺のよく知る人だ。
「母さん!?なんでここにいるショ」
「なんでって、私はご近所のお友達とお話ししてただけよ?」
どうやら富永の母親と俺の母親は友人同士だったようだ。
その状況に娘と息子が驚いているともつゆ知らず、2人はすぐさま東堂に話題を切り替える。
東堂の話題が出た時に少し不味いとは思ったが、案の定母の余計な一言に東堂は得意げにこちらを覗き込んでくる。
早く話題を切り替えなくては、東堂はこのにやけた面でしつこく何故俺の母親が東堂のことを知っているのかを根掘り葉掘り聞いてくるだろう。
別の話題を頭の中で考えていると、富永の母親がとんでもない提案をしてきた。
「そうだ、裕介くん。今日は尽八くんが来るからと張り切って晩ご飯作り過ぎてしまったのよ。よかったらうちに来ない?」
その提案に驚きフリーズしていると、すかさず母が
「あらご迷惑じゃないの?」
なんて返す。
すると、富永母は楽しそうに
「いいのよー!尽八くんと裕介くんも仲良いのでしょ?もしなんだったら尽八くん1人じゃ寂しいかもしれないし泊まっていってくれてもいいのよ?」
なんて言う。
その言葉に俺の母も了承し、いつの間にか勝手に俺も富永の自宅で世話になることに決定していた。
最初は富永も東堂も話について行けずに停止していたが、そのうち話が理解できたようで一気に歓迎ムードになった。
東堂は語り明かそうなんて張り切っている。
(語り明かすのは嫌だが、多少話すぐらいなら許してやらなくもないショ。なんせ、今日の俺は機嫌がいい)
俺は一旦荷物を置きに母と家に帰ることにした。