第18章 柔らかい感触
「よし、支度もできたし帰るショ」
『はい!』
2人は私を挟む形で歩き出す。
そしてもうすぐ駅の改札を通ろうと言う時に巻島さんが尽八に尋ねた。
「東堂、お前乗り換えどこショ?」
「あぁ、俺は今日から茉璃の自宅で世話になることになっているからな。茉璃と一緒だ」
「ハァ!?」
尽八のその言葉に一瞬場が凍った気がしたが、すぐに尽八が巻島さんを挑発するような言葉を続ける。
「ワッハッハー!いいだろう巻ちゃん!仕方ないなー俺と茉璃はなんたって幼馴染みなのだからなー!」
『うるさいよ、尽八!勝手にお母さんが了承しちゃってたから仕方なく一部屋提供してあげるだけ。すみません巻島さん。尽八ウザくて…』
「あぁ、もう慣れたショ」
「なんだ茉璃も巻ちゃんも!!!!」
尽八が頬を膨らませながら怒る様がなんとも面白く、巻島さんと顔を見合わせ笑ってしまう。
すると尽八はさらに怒ったような表情を見せた。
かと思うと、少し満足げな顔をして微笑んだ。
電車の中では先程の騒がしさも忘れ、2人は疲れ果てたように眠ってしまっていた。
朝早くから山を全力で登ったのだから仕方ない。
私の両肩で寝ている2人を起こさないように左肩にある巻島さんの寝顔をジッと見つめる。
(本当に綺麗な顔…)
髪の毛が鎖骨や腕に触れてくすぐったい。
だがそれすらも少し心地よい。
(触っても…大丈夫かな…?)
私は少し長くて玉虫色をした柔らかい髪に撫でるように触れる。
(柔らか…フワフワしてる。男の人の髪の毛なのに、なんでこんなに触り心地いいんだろう…なんか、癖になりそう…)
そんなことを考えていると、突然。
「なんショ?」
目を閉じたまま急に問いかける巻島さんに声を上げて驚きそうになるのを必死で抑え、触れていた手をパッと離す。
『すみません。起こしちゃいましたか?』
私が謝ると巻島さんは自身の手を私の手に添えまた髪へと戻した。
「普段、誰かに触れられるのは好きじゃねぇんだが、お前だとなんだか心地いいショ。だからもう少しこのまま…」
そのまま巻島さんはスゥ…と寝息をたててまた寝はじめてしまった。
私は自分の心臓の音で2人を起こしてしまわないか気が気じゃなかった。