第86章 坂道の先に
『すみません!総北高校のものなんですが、このあたりで携帯の電波の繋がるところってないですか?』
慌てて駆け寄った私に、大会本部のスタッフが驚いたように目を瞬かせる。
「ここはほとんど圏外なんです。…どうされましたか?」
『下山している先輩にどうしても連絡を取りたくて…!』
事情を聞いたスタッフが一瞬迷った後、テーブルの上にある黒い受話器を差し出した。
「特別にこれ使ってください。本部の回線なら繋がるかもしれません。」
『っ!ありがとうございますっ!!』
手が震える。
携帯を取り出し、画面に浮かぶ名前を探す。
何度もかけてきたあの番号。
受話器を耳に当てそっと数字を押す。
呼び出し音が響いた瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。