第85章 揺れる心と押す背中
「茉璃と走るの、久しぶりショ」
『そうだね』
少し考え込んだ後、裕介さんは静かに話し始める。
「なんか、あったか?」
『え?』
「いや、なんか表情がいつもより暗かった気がしてな」
裕介さんに隠し事はできない。
わずかな表情の違いも見抜いてしまっていたようだった。
私は素直に青八木くんのことを打ち明けた。
「それでもあいつは走るっていうだろうな」
『うん』
「心配か?」
『そりゃ心配だよ。無理するなって言っても、きっと青八木くんは無理をする…』
裕介さんは少し笑みを含ませて言った。
「それでも、応援してやれ。あいつは3年間、ずっと憧れ続けてきたあのジャージを着て、インターハイ最終日のスタートラインに立とうとしてるんショ。だから、茉璃は背中を押してやるだけでいい。それだけで何倍もの力が出るもんショ」
私は頷き、胸に力を込める。
並走する裕介さんの手がそっと私の頭に触れた。
「ありがとう、裕介さん」
決意が固まる。
私は明日、全力で青八木くんを、総北のみんなを応援しよう。
マネージャーとして、仲間として全力でサポートをする。
そう心に決めた。
遠く、ファミレスの駐車場に金城さんと田所さんの姿が見える。
近づいていくと私たちの姿に気づき大きくこちらに手を振ってくれた。
「おう!富永も一緒だったのか!」
「俺らも明日、応援している」
『はい!ありがとうございます!」
2人は順番に私の頭にポンと手のひらを乗せると、優しく微笑んだ。
「宿まで送ろう」
金城さんはそういうと私のロードを田所さんの車のトランクに詰め込む。
車に乗り込むと田所さんがアクセルを踏んだ。
宿に着くと、3人は他のメンバーに会うことなく帰って行った。
私は車が見えなくなるまでその道を見つめていた。