第85章 揺れる心と押す背中
ロードから降り息を整えながらこちらに向かって3人がやってくる。
「茉璃!?」
「富永さん!?」
尽八と小野田くんが私の存在に気づいた瞬間、目を丸くして驚く。
そのリアクションに思わず微笑んでしまった。
『裕介さん、私を呼んだこと忘れてたでしょ』
座ったまま頰に手を当て、少し拗ねたように上目遣いでいうと、裕介さんは目を逸らし、頬を指でかきながら答える。
「…あー、っと、忘れてたわけでは…ないショ。ちっと、熱くなりすぎた…悪りぃと思ってる…ショ」
その不器用な仕草に自然と笑いが溢れる。
それにつられて裕介さんや尽八も笑う。
久々に感じるこの空気に、先ほどまで曇っていた胸の奥がふわりと軽くなる。
しばらくは、私たちは峠の夜風の中話を楽しんだ。
山の静けさも、私たちの笑い声も、全て柔らかく包み込む。
3人と過ごす時間は緊張と不安の連続だった今日一日の中でかけがえのないひと時となった。