第85章 揺れる心と押す背中
山頂に着くと、まだ裕介さんの姿はなかった。
街灯の淡い光が差す階段に腰をおろし、夜風に吹かれながら待つ。
心臓の奥が少しざわつく。
坂の下からロードバイクの駆け上がってくる音が聞こえてきた。
耳をすませるとペダルを踏むリズムが2つ。
そして、その後ろにもうひとつ。
立ち上がり、暗闇の先を見つめる。
2つの影が勢いよく山頂へと迫る。
その後ろにもうひとつの影ー小野田くんだ。
山頂付近で2つの影は一瞬ペダリングを緩める。
そしてほぼ同時に山頂に到達し、そのまま下りへと入っていった。
裕介さんと尽八だ。
思わず息を飲む。
再びこの2人が競い合う姿を見られるなんて。
後ろに控える小野田くんも全力で追いかけている。
2人は山を下り、また登る。
その繰り返しは、次第に夜の静けさを忘れさせるほどの熱量で、タイヤが唸る音と息遣いが響き渡る。
2回戦、3回戦、4回戦、5回戦ーーー。
それぞれ2勝ずつ。
どちらも譲らない。
そして6回戦目。
最後に峠を制し、両手を大きく広げたのは裕介さんだった。
汗といきで荒れた顔を見せながらも2人は肩を組み合い笑みを零す。
再会の喜びが言葉よりも大きく2人を包んだ。