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蝶と蜘蛛

第85章 揺れる心と押す背中


部屋について明日の準備をしようとしても、青八木くんの表情が目に焼き付いて落ち着かない。

念のためにとサポートカーに積んでもらっっていた自分のロードバイクに跨り、宿を抜け出す。
冷たい夜風が顔を切る。
ペダルを踏む足に力が入るたび、心も少しずつ整って行く。
それでも不安は完全には消えなかった。

数キロ走ったところでポケットの振動が伝わった。
スマホの画面を見ると、そこには”巻島裕介”の文字。

呼吸を整えながら電話に出ると、低く落ち着いた声が耳に届く。

<茉璃、今から榛名山まで出てこれるか?>

偶然にも私が今登っていたのはその山。
まるで呼ばれていたかのようなタイミングに胸の奥が熱くなる。

『…行く』

電話を切ると自然とペダルに力が入る。
目の前にそびえる山道。
暗闇に包まれた峠を前に、全身の感覚が研ぎ澄まされる。
呼吸も鼓動も全てが一つとなって、私は全開で駆け上がった。
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