第84章 届かない手のその先で
インターハイ当日。
この日のために、部員全員が全力で準備を重ねてきた。
私は総北高校のマネージャーとしてサポートに徹する。
…はずなのに。
胸の奥がそわそわして落ち着かない。
理由はひとつ。
”帰るショ”
昨日届いたあのたった4文字のメール。
画面を何度も見返した。
裕介さんが帰ってくる。
あの声も、あの笑顔も、この夏にもう一度。
そう思っただけで心がざわつく。
でも現実はそう甘くなかった。
朝、空港便を調べると予定していたフライトが”6時間遅れ”の表示。
思わずため息がこぼれた。
本当ならスタート前に会場に着いて小野田くんに激励でも伝えていたのだろう。
しかし起きてしまったことは仕方ない。
今朝、金城さんから電話が来て裕介さんが一時帰国することは伝えた。
今頃田所さんとともに空港へ迎えに行っているのだろう。
私はいつも通り仕事をするだけだ。
手を動かしていれば少しだけ落ち着く。
「茉璃、緊張してんのか?」
『ふぇ!?』
いつの間にか目の前にきていた純太の顔に驚き変な声が出る。
「悪い悪い。そんな驚くとは思わなかった。朝からずっとソワソワしてるみたいだったからさ」
『あー、うん。そう。最後のインターハイだからさ、緊張しちゃって』
金城さんから、裕介さんをはじめ先輩たちがこのインターハイにくるということは黙っていた方がいいだろうと口止めされている。
そのため、悪いとは思いつつも適当な理由をつけて誤魔化した。