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蝶と蜘蛛

第84章 届かない手のその先で


時は進みーー
私たちにとって最後のインターハイがやってくる。


インターハイの前日の夕方。
部室の片付けを終え、汗をぬぐいながら校門を出る。
明日から始まるインターハイを思うと胸がざわついていた。
空は茜色から群青へと変わり、蝉の声もどこか遠のいていく。

鞄の中のスマホが震えた。
画面を覗くと、そこには短いメッセージがひとつ。

ーー”帰るショ”

その4文字を見た瞬間、心臓が跳ねた。
震える指で差出人を確認する。
そこに表示された名前はーー”巻島裕介”

信じられない気持ちですぐに発信ボタンを押した。
数コールの後、懐かしい声が耳に届く。

「久しぶりだな、茉璃」

息を飲む。
その声を聞いただけで目の奥が熱くなる。
この約1年間、淡白なメールのやりとりばかりしていたので、言いたいことは山ほどあるが、すぐに聞かなきゃいけないことがある。

『”帰る”って、どういうこと?』
「インターハイ、見に行こうと思ってな」
『…いつ?』
「今から飛行機だ」
『は?今から?』
「あぁ」

まるで当たり前の様に言うその声に思わず笑ってしまう。

(本当、急なんだから。)

でも涙が滲む。
1年ぶりの”帰る”という言葉が、心に沁みた。
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