• テキストサイズ

蝶と蜘蛛

第82章 踏み出す一歩


息を切らせてペダルを止めると、目の前に広がる景色。
茜色に染まる空。
遠くに見える町並み。
木々の緑。
胸いっぱいに吸い込む空気が、夕暮れの香りを運ぶ。

「富永さん…富永さんの、その走りは…その…箱根学園の…」
『あぁ、私に自転車の乗り方を教えてくれたのは尽八だからね。』
「えぇ〜っ!?」
『よく尽八の家のスーパー買い物号の音をいかに鳴らさないで走るかって教え込まれたのよ』
「ス、スーパー買い物号…?」
『尽八の実家にあるママチャリ』
「と、東堂さんの…ですか?」
『言ってなかったっけ?幼馴染なんだ』

小野田くんは驚きを隠せない様子で大きな目をぱちくりさせている。
先ほどまでの沈んだ空気はそこにはなく、何処と無く晴れやかだ。

『ねぇ小野田くん』
「はい?」
『裕介さんがね、言ってたの。”あいつはいつでも前だけ見て一生懸命ショ。小野田が走ってる姿はいつも楽しそうで、こっちが照れ臭くなるくらい熱い。あいつはスゲェ奴ショ。自慢の後輩っショ!”ってね』

小野田くんの瞳がキラリと輝く。

「巻島さん…そんな風に言ってくれてたんですね」
『うん。だから、小野田くんには楽しんで走ってもらいたい』

小野田くんは空を見上げる。
淡い茜色の空に、飛行機雲が一筋伸びていた。
その飛行機雲は遠くの国にいる裕介さんと私たちを繋ぐように見えた。

「僕…できるでしょうか?」
『全部背負い込まなくていい。小野田くんにはみんなが…裕介さんがついてるよ』

小野田くんはハッとしたように自身の着ている黄色いジャージを眺めた。
風は吹き抜け、髪を揺らす。
夕焼けの光に、2人の影が長く伸びる。

『私もね、すっごく寂しい。心にぽっかり穴が空いたみたい…でもね、私立ち止まらないことにした!』
「富永さん…」
『周りの人に何を言われようが気にしない!私はあの人のことが好き。大好き。だから…進み続けるよ。小野田くんは、どうしたい?』
「僕はーーー」

小野田くんの決心を聞き安心する。

(裕介さん。裕介さんが繋いだ想いは、ちゃんとここにあるよ。)
/ 357ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp