第75章 最後の時間
『ごめんね、純太』
「いいんだ、こっちのことは気にせずちゃんと送り出してこい」
翌日、私は純太に頼んで、裕介さんが渡英するまでの今日を含めた3日間、部活を欠席させてもらう事にした。
申し訳なさもあったけれど、それ以上にこの時間を逃したくなかった。
今日は裕介さんの家でお世話になる事になっている。
裕介さんのお母さんが「最後にうちでゆっくり過ごしたら?」と声をかけてくれたのだ。
何度も通った学校からの道のりの一歩一歩が特別に感じる。
見慣れた大きな玄関先に立つと、胸の奥が少しだけ締め付けられた。
「いらっしゃい。茉璃ちゃん。暑かったでしょう?」
優しく迎えてくれるお母さんの笑顔に緊張が和らぐ。
『お邪魔します』
「裕介なら自分の部屋にいるわよ。荷物おいたら裕介連れて降りて来てくれる?少し早いけど夕飯にしましょう。」
『わかった!ありがと』
階段を上がり廊下を進むと奥の部屋から小さく物音がした。
少し空いている扉から中を覗くと、部屋の隅でスーツケースを広げて服をたたむ裕介さんの背中が見えた。
窓から差し込む光に照らされて、長髪の玉虫色をした髪がフワッと揺れる。
「ん、あれ、いつの間にきてたショ」
『今来たところだよ。お母さんが夕飯にするから降りておいでって』
スーツケースへと服を詰め終わると、私は裕介さんとともにダイニングへと向かった。