第75章 最後の時間
『もうこの図書室で、この学校で裕介さんと過ごせるのも、最後なんですね』
ポツリと溢れた自分の声が、静まり返った廊下に優しく響いた。
窓から差し込む午後の日差しが2つの長く伸びた影を作る。
この光の中に立つ裕介さんの横顔は、どこか遠くを見つめていた。
最初に裏門坂で助けてくれたあの日、自転車競技部のマネージャーとなり一緒に切磋琢磨したあの日々、尽八と3人で観光をした2日間、合宿に3日間のインターハイ、そして一緒に図書館で過ごした日々が、胸の奥に鮮やかに蘇る。
あの日々が、もうすぐ終わってしまう。
3日後には裕介さんは渡英してしまう。
残された時間は、指の隙間からこぼれ落ちる砂のように、あとわずかしかない。
夏休みの校舎は驚くほど静かで、いつもは生徒たちで賑わう廊下にも、今は蝉の声しか届かない。
そんな中、裕介さんがこちらを向いた。
穏やかな笑みを浮かべながら、少し照れ臭そうに言う。
「なァ。せっかくだし、どこか出かけるショ」
その一言が、胸の奥で静かに波紋を広げた。
この人と過ごせる”最後の時間”が今ゆっくりと動きだす。