第74章 進路
裕介さんを尽八の元へ送り出した翌日、部活の休憩時間中にポケットの中で携帯が震えた。
そこには”東堂尽八”の文字。
『はい』
<茉璃?>
いつも騒がしいはずの尽八の声が今日はとても弱々しい。
『大丈夫?』
<大丈夫…ではないな…ジグソーパズルの最後の1ピースの残った一つが全く違う形のものだったーーーそんな感じ、だ。茉璃は知っていたのだろう?大丈夫なのか?>
こんな弱っていても私を心配してくれる尽八の声はどこまでも優しい。
まぁ、正直なところ大丈夫、ではない。
別れの日が刻一刻と迫る中、大丈夫とは到底言えなかった。
でも私は裕介さんの背中を笑顔で見送ると決めた。
だから、私はーーー
『うん。大丈夫だよ』
力強く答える。
<そうか…茉璃は強くなったのだな…俺はそのまま明早大に行って、フクや新開と走るよ。またあいつらと走る。それも悪くない>
尽八の声はいつまでもか細く何かを考えているようだった。
『尽八。私、来年は筑士波大を受ける。』
<え、あぁ…そうか>
私の急な宣言に尽八は戸惑ったように答える。
しかし次の一言で尽八の声色が変わることになる。
『裕介さんの行くトールウェッソン大学と姉妹校だから』
<…え?>
『要項によれば条件が合って、希望を出せば割と簡単な試験で留学することができる。裕介さんと同じ大学に通えるかもしれないんだよ』
<行ける…のか?可能性があるのか!?>
すっかりいつもの声色に戻った尽八に笑みがこぼれる。
『うん。行けるよ。もう明早大に決めちゃったなら何も言わない。けど、まだ決めてないのなら、一緒に行かない?筑士波大』
<あぁ!行くさ!行くとも!!>
『私も1年遅れて追いかける。思ったの。待ってばっかじゃダメだって。裕介さんにはいつももらってばかりだから、今度は私が裕介さんのために努力する!』
<そうだな!>
明るくなった尽八の声に安心しながら私は部室の方を眺めた。
部室の前では新キャプテンがこちらを見て手招きしている。
『あ、もうすぐ休憩が終わる!じゃあね、尽八!』
<ありがとう、茉璃>
私は終話ボタンを押すと新キャプテンの元へと駆け寄った。