第45章 1年生ウエルカムレース
いよいよ田園区間を抜け峰が山へ突入していく。
小野田くんが裏門坂で見せたあの走りから私は小野田くんがクライマーであると期待せずにはいられなかった。
そんな私の期待以上に小野田くんはグングンと坂を登っていく。
そして桜井くん、杉元くんを抜くとあっという間に3人目である川田くんも抜き去って行った。
「本気で今泉たちに追いつくつもりか」
「そのつもりだと思います。そのために彼はロードレーサーに乗ったんですから。今小野田くんを走らせているのはイメージの中にいる今泉くん、鳴子くん。そのイメージを実現させる事が彼の今の最大のモチベーション!」
幹がそう語ると裕介さんは少し嘲笑するように反論する。
「甘いねェ。お嬢ちゃんは。夢?それドリームっショ。自転車レースはそんな甘いもんじゃない。田所っちもわかってるショ?あいつが今泉たちに絶対に追いつけないって事を。そりゃあケツからパーッと走ってドアタマまで追いつきゃカッコイイ。痺れる。ましてやその相手が実力のある経験者なら尚更だ。でも、田園区間で3分さっきの自転車の乗り換えできっちり5分。すでに8分の差がついてる。8分差で発車した電車が前に追いつかないのと同じ。追われる方も走ってる。差を詰めるのは簡単な事じゃないっショ。そりゃあ桜…なんだっけ?とサラサラ髪とさっきもう一人抜いた時は大したもんだと驚いたけど…それまでっショ」
『そうですね。今90回転くらいでしょうか。一杯一杯で回してるであろうケイデンスをもう10回転あげなきゃ…追いつけないでしょうね…』
裕介さんと私の言葉に田所さんと幹は驚愕の声をあげる。
それはそうだ。
裕介さんや私などのクライマーならともかく、一般的には地獄のセクションと言われるこの峰が山。
今でもよく回していると言われるケイデンスをさらに10回転なんて無茶な話だ。
それでも何故だろう。
私は小野田くんに期待せずにはいられない。
裕介さんや私と同じ、クライマーなんじゃないかと。
きっと裕介さんも心の何処かで期待をしているはず。
私はただ小野田くんを見つめ祈ることしか出来ないでいた。