第8章 失いたくない人
「こんなんだから……弱虫ラディッツ、なんて言われるんだろうな」
そう呟いてミズナの方を見る
元から肌の色は白いが、出血のせいでさらに白く見えた
「……」
北の方角に集まっていた生命反応の一部がこちらへと向かって来る
ラディッツはそれを見ながらスカウターのボタンを押した
少し待ってからミズナを毛布ごと抱き上げて外に出る
視線を上げると、曇り空の中に白い点が見えた
それが発する聞き慣れた音にミズナが顔を上げる
雪を舞い上げながら目の前にゆっくりと着地するポッド
ラディッツはハッチを開けると座席にミズナを座らせた
「……何……する気?」
「分かってんだろ?……先に帰れ」
「い、嫌!相手の数が多過ぎる!私も戦……っ!」
普段は使わない生命維持装置のマスク
それに顔の下半分を覆われ、一瞬息を吸っただけで意識が遠のく
彼が微笑むのを見ながらゆっくりと目を伏せた
「……そう言うと思った……今回だけは先に帰ってくれよ。お前を……死なせたくないんだ」
そう言い、毛布でミズナの身体を包み直す
母船への帰還コードを打ち込んでハッチを閉めた
数歩後ろに下がって飛び立つのを見送る
ポッドが雲の中に消えると、それを待っていたかの様に再び雪が降り始めた
風も強まり、この星に来た時の様に視界が無くなる
スカウターにこの集落を囲む様に敵が集まっているのが映った
「生きて帰れたら……弱虫って言われなくても済むかもな」
そうすればミズナの隣で少しは胸を張っていられるかも知れない
でも帰れなかったらどうなるだろう
(あの世で親父に怒鳴られるか……ミズナは泣いちまうかもな)
そんな事を思いながら真っ白な空へと舞い上がった
なんの物音も聞こえない場所で意識が戻る
手足の感覚はあり、どこにも痛みは無かった
雪と氷に覆われた星だというのに周囲の空気は暖かい
重い瞼を無理矢理開けると視界がぼやけていた
数回瞬きをすると見慣れた自室の天井がはっきりと見える