第8章 失いたくない人
「?……」
いつの間に船に帰って来たのだろう
思い出そうとしても何も覚えていなかった
「ラディ……?」
小さく名前を呼ばれてそちらに目を向ける
するとミズナがベッドに手を付いてこちらを見ていた
腕をこちらに伸ばして頬に触れられる
その優しい感触がとても気持ち良かった
再び眠りそうになるのを堪えながら彼女の顔を見てゆっくりと口を開く
「……ミズナ……怪我、治って良かっ……!」
そこで言葉が途切れて続けられなくなった
唇が柔らかいものに塞がれ、間近にあるミズナの伏せられた目を見る
ゆっくりと顔が離れると、今度は首に腕を回して抱きついて来た
「おい……どうしたんだ?お前らしくない……ぞ?」
「……」
そう声を掛けても彼女は無言のまま
だが、肩が濡れるのを感じて泣いているのが分かった
自分の上に上体を預けているミズナの身体を抱くようにして腕を回す
安心させる様に背を撫でると堪えていたのか、嗚咽が聞こえた
「ごめんな……心配させて。俺、いつ戻ってきたんだ?」
「5日前……あの後、ベジータさんとかナッパさんとか……5人であの星に行って……」
「そうか……俺、やっぱ1人じゃ無理だったか」
「……覚えてないの?」
「何も」
「ベジータさん達が着いた頃には侵略は終わってたって……でも、ラディが瀕死で……」
その先は言葉にならない
ラディッツは再び泣き出すミズナの頭を撫でた
「……無理に話さなくて良い」
「……うん」
自分がミズナを失いたくない様に、彼女も同じ気持ちだったのだろうか
自分の帰りをどんな気持ちで待っていたのか
首を動かしてミズナの方を見るが、表情は見えなかった
今は彼女の気が済むまでこうしておいた方が良いだろう
ミズナが身動ぎする度に髪が頬に触れる
くすぐったいが、今は我慢しておこう
それに、今は自分もミズナに触れていたい
そう思い、彼女の身体を抱いている片腕に力を込めた
(エリート同士じゃなくても……良いよな?……親父)
父親が生きていたら自分達を見てどう思うだろう
ミズナの父親との賭けが本当にあった事なら喜んでいるだろうか
楽しそうだったバーダックの顔を思い出し、ラディッツは僅かに笑みを浮かべた