第8章 失いたくない人
だが、自分に痛みは全く無い
次の瞬間、足元に熱気を感じて同時に轟音が響いた
目を開けると目の前には見慣れたミズナの背中がある
どういうことだと足元を見ると鎖が千切れていた
その先の地面は雪が解けて地表が見え、吹き飛ばされた敵の残骸が散らばっている
「ミズナ……」
「……間に合った……加減忘れて、力が入っちゃっ……」
そこまで言うとミズナの体から力が抜けた
落ちそうになる彼女の腕を慌てて掴んで体を引き寄せる
「おい、どうし……っ!」
手に伝わるヌルりとした感触に言葉が止まった
体から手を離してみると血が付着しているのが見える
「お前……」
「大……丈夫。ちょっと眩暈が……」
そう言い、こちらに顔を向けると困ったように笑ってみせた
だが、体にはレーザーによる傷が幾つも出来ている
血の量からしてその傷が深いことが分かった
とにかく血を止めなければならない
休めそうな場所は無いかと周囲を見回すと、丘の上に集落が見えた
ミズナを腕に抱いて近づいてみるが人影は全く無い
(逃げたか……今はその方が助かるな)
そう思い、一番近い家のドアを開けて中に入った
室内は暖房器具が動いていて暖かい
戦闘の衝撃がここまで伝わっていたのか、食器が床に落ちて割れている程度で休むには充分だった
慌てて逃げ出したのかキッチンには料理途中の材料が散らばっていた
邪魔なテーブルを足で避けてソファにミズナを下ろす
背中から抱えていたミズナの顔を見て動きが止まった
スカウターの表示部分が割れて左目を傷付けている
自分の前に出なければこんな怪我をしなくても済んだだろうに
「……何で俺を庇ったんだよ」
問い詰めたいが、それは後でも出来る
今は出血を止めるのが先決だろう
そう思い、止血出来そうな物を探して室内を漁った
物音に薄れていた意識が戻ったのかミズナが身動ぎする
「ラディ……?」
「動くなよ。止血するから」
そう言うと力なく頷いてソファに横になった
隣の部屋の棚から布を引っ張り出してミズナの側へと近づく
目を伏せているミズナの頬に触れると薄く目を開けた
「脇腹の傷が酷いな……ジャケット、脱げるか?」
「うん……」