第8章 失いたくない人
「……じゃあ、賭けるか?」
「え?」
「俺のガキ……ラディッツとミズナ、2人がくっ付くかどうか」
「……バーダック、子どもを賭けに利用するのは……」
「親同士でやるんだから良いだろ。お前、どっちに賭ける?」
「仕方ないですね……恋人になる方に賭けます。貴方は?」
「恋人になる」
「……」
「……」
「……それでは、賭けになりませんね」
「それもそうだな。くそっ、エリートを賭け事に引きずり込むチャンスが……」
「やめてください。遊び人になったらベジータ王に怒られますよ」
男が困った様に笑いながら、酒が入ったビンをこちらに向ける
バーダックはグラスを手に取り、笑みを浮かべた
ガクン、と首が前に倒れて目を覚ます
瞬きをして周囲を見回すと、ポッドの内部装置が目に入った
「……夢か」
侵略へ行く移動中だった事を思い出し、座席に座り直す
正面の窓からはミズナのポッドと暗い宇宙が見えた
『ラディ、起きちゃった?』
「ああ……あとどのくらいだ?」
『3時間くらい、かな』
「そうか……あと2時間は寝れたな」
『うん。私は……1時間前に目が覚めちゃったけど』
「睡眠装置、使わなかったのか?」
『移動距離が少ないから使ってないよー』
「そうか」
『途中で起きるなんて珍しいね。嫌な夢でも見た?』
「嫌って言えば嫌だな……ミズナ、親の事って覚えてるか?」
『お父さんの事?……なんとなく。おじさんと仲良かったよね』
「……ああ。良く酒場に連れて行かれたよな……ガキだから飲めねえってのに」
『うん。いっつも途中で寝ちゃってたね。懐かしいなあ』
そう言い、小さく笑う声が聞こえた
ミズナの父親の姿は良く覚えている
戦闘には不向きな裾の長い服
左目には自分たちと同じくスカウター
手首までの白い手袋をつけ、襟には親衛隊の証を付けていた
ベジータ王の側に控えながらも自分と視線が合うと笑みを浮かべて小さく手を振ってくれる
天と地ほどに立場の差があっても誰にでも対等に接していた
父であるバーダックが友人になったのもそんな彼の性格に惹かれたからだろうか
そう考えてふと夢の中で父が話していた事を思い返す
「……エリートには……エリート、か」