第3章 ストレート
「……おい」
「……ん?」
「何で抵抗しなかったんだ?」
「それは……その……」
タオル越しのくぐもった声
ラディッツは目だけをミズナの方に向けて返事を待った
「……嫌じゃなかったから……」
「つまり、お前は俺が好きなのか」
「……」
ミズナがこちらに顔を向けたまま固まる
どうしたのかと聞こうとした時、ゆっくりと言葉が返ってきた
「恥かしくも無くよくそんなことを……」
「違うのか?」
「好きでもない相手だったら、今頃閻魔に会ってる頃だろうね」
「じゃぁ、好きなんだろうが」
「……そうなる……かな」
そう言うとミズナは手櫛で髪を梳いた
押し倒されたせいか少し絡まっている
何度も手を往復させていると、じっとこちらを見ているラディッツと視線が合った
今までに見たことの無い穏やかな笑顔
その表情を惹き付けられるように見ていると、不意に胸に何かが触れた
視線を落としてそれを見る
胸に触れているのは、紛れも無くラディッツの手だった
「!?……な、ななな……」
「いや、何で女の胸は膨らむのかと思っ……」
言葉は最後まで告げられなかった
ミズナの右ストレートが綺麗に横顔に決まる
「ば、馬鹿!医学書でも読めば!?」
そう言うと倒れ込む自分を残してさっさと部屋を出て行った
だが、すぐにドアが開いてミズナが戻って来る
痛みで身動きが出来ず、物音が聞こえても何をしているのか見ることが出来なかった
室内を歩き回る足音がすぐ横で止まのが分かる
また殴られるのかと思った時、頬を押さえていた手の上に冷たい物が触れた
「冷やしておきなさいよ。……き、キス以上はまだ駄目だからね!」
打撲を受けた時に患部を冷やす冷却シート
ミズナはそれを彼に渡すと踵を返して着替えを包んだバスタオルを持って部屋を出た
早歩きで部屋に戻る自分を何事かと見送る同僚達
壊れるんじゃないかと言う音を立てて部屋のロックを外した
室内に入り、バスタオルを部屋の隅に置いているカゴに入れる
また髪が絡まるのも構わずにベッドに倒れ込むと枕を抱き寄せた