第17章 クウラ軍・前編
ラディッツは彼女――ミズナが関わる事になると歯止めが利かなくなる
以前、母船が航行不能にまで壊された時も彼女が関わっていた
正確にはミズナに作ったおやつを食べられたのが原因だが
変身しなかったとはいえ、あの時のラディッツを自分には止められなかった
今回はミズナ本人が賭けの対象になり、その怒りは凄まじいものだろう
静まり返った室内で彼はミズナを片腕に抱いて視線だけを兄に向けていた
「……分かりました」
やがてそう返事をしたラディッツに、クウラが満足そうに笑う
腕を組むと大きな窓の方へと視線を向けた
「あの星に船を下ろす。明日の昼、試合開始だ」
「はい」
「サウザー、お前もそれで良いな?」
「はっ」
自分たちの返事を聞き、背を向けて席へと戻るクウラ
ラディッツはフリーザの方を見ると頭を下げてその場を離れた
廊下に出て数歩歩いたところで広間から戦闘員たちの話し声が聞こえ始める
自分の名前を口にするのが聞こえたが気にせずにミズナへと視線を向けた
すると彼女がこちらの左手に触れて自分の方へと引き寄せる
そして水滴と血で濡れた手をどこからか出したハンカチで拭いてくれた
「痛い?」
「いや、大丈夫だ」
「手当てしないと。早く船に戻ろ?」
「ああ」
今自分たちが居るのはクウラの船で、フリーザの船は下にある
船同士を連結している中央部分まで来ると開けられたままのハッチから下へと下りた
そのまま救護室に向かうと戸口に立って中を覗く
医療班まで飲み会に行っているのか室内に人気は無かった
今は重傷者や病人が居ないからだろうと思いながら机の側にある椅子に座る
「ラディ、押さえててね」
ミズナにそう言われてハンカチで傷口を押さえた
彼女が手当てに使う薬を探すのを見ながらその背に声を掛ける
「おい」
「ん?」
「妙な事になったが、大丈夫か?」
「う~ん……驚いたけど、平気だよ?それよりも……」
「何だ」
「ラディ、クウラ様の事怖くないの?笑ってたけど」
「あれは……俺が笑ってないと、お前が余計に怖がるだろ?」
「あ……ありがとう」