第13章 王子の子守り・前編
「医療室だ。大丈夫か?」
「何を言っている?オレはどこも悪くない」
「そうか?なら良いんだが……」
「……待て、のどが痛い。それにはらがへっている」
「あ、もうすぐプリンが出来ますよ。食べますか?」
ドアの影から顔を覗かせる人物を見てベジータが目を瞬く
それが誰なのかが分かると僅かに首を傾げて見せた
「ミズナか。もうすぐ出来るとはどういうことだ?」
「ラディが作ってくれたんです。すごーく美味しいんですよ」
「それで良い」
そう言い、ベジータがベッドを降りる
ドアの縁に避けて彼を通すと廊下にいた戦闘員が慌てたように道を空けた
「何だきさまら。こんな場所に集まるとは、よほどのひまじんなのだな」
鼻で笑ってそう言うベジータを見て皆が苦笑を浮かべる
ここにいる全員がラディッツのように暴れると考えていたのだろう
(……ベジータさんは暴れてないけど、やっぱ怖いよね。急に暴れるかもしれないし……)
ミズナがそう思っていると、不意にベジータが足を止めた
どうしたのかと声をかける前に彼がこちらへと顔を向ける
「ラディッツ」
「ん?」
「……フラフラする。連れて行け」
「ああ、良いぞ」
ずっと寝ていたせいで足が思うように動かないのか
ラディッツはベジータに近付くと身を屈めてその身体を抱き上げた
見掛けよりもかなり小さく、とても軽い
自分もこんな風になっていたのだろうか
その時、ミズナはどんな思いで自分の面倒を見ていたのだろう
そんな事を考えていると、ベジータが腕を組んでこちらを見上げた
「何をしている。さっさと歩け」
「……はいはい」
きっと自分はもっと可愛げがあった筈
そう信じながらミズナの方に視線を向けると笑っているのが見えた
「何だよ」
「ううん。ラディ、お父さんみたいだなって思って」
「お……お父さん……?」
「うん。何となく顔も似てるし……頑張ってね」
「……俺がお父さんなら、お前がお母さんだろ。手伝えよ」
「えっ……お母さんって……あ、そうか。うん、そうだよね!」
恥ずかしそうに笑い、そして嬉しそうに頬を染めるミズナ
ラディッツは自らの照れを誤魔化すようにして小さく咳払いすると、ベジータを抱え直して歩き出した