第12章 二つのポッド
「はい!これで良いですね」
「良くない!」
「ラディの体、寄りかかると安心感ありますよ~」
「そんなもの必要ない」
「良い匂いもするし……って今はきな臭いだけですけど」
「男の匂いなど嗅ぎたくもない!」
「ベジータ我慢しろって、1ヵ月半だけなんだから……あ、ミズナを踏むなよ」
そう言いながら装置の縁に足を掛けるラディッツ
操作パネルにも足が触れないようにして靴底を窓についた
彼の膝に乗っているベジータも自然と同じ様な格好になる
ミズナは再び言い争いになる2人を見ながら睡眠ガスを出して良いのかと天井の装置を見た
さっきの格好ではラディッツが可哀想だし、ベジータには少し我慢して貰いたい
いっその事さっさと眠らせてしまおうかと片手を天井に伸ばした
するとスカウターから遠慮がちにナッパの声が聞こえて来る
『おい……大丈夫か?』
「あ、はい。何とか快適に乗ってます」
『さっきから言い争いしかしてないように聞こえるが……』
「そうなんですよ。コールドスリープしても良いと思いますか?」
『ああ、口喧嘩も静かになるぞ。さっさと寝ちまえ』
「そうですね。じゃあ、出しちゃいます」
『俺も寝る。母船でな』
「はい」
通信を切りながら2人の方を見た
スカウターの会話は聞こえていなかったのか、まだ口喧嘩をしている
それを尻目に再び天井に手を伸ばすとスイッチを押して同時に息を止めた
シュー、という音と共に僅かに着色されたガスが通気孔から噴出する
2人が息を吸うのと同時に糸が切れたようにガクンと頭が下がった
ベジータの腕を押える為か、ラディッツの両腕が身体に回されている
ミズナはそれを見るとスカウターを弄って映像記録を撮った
後でベジータに見せたらどんな顔をするだろう
顔を伏せているが、自分の座っている位置からはその寝顔が見えた
ラディッツの寝顔は普段通り、見ているだけで心が温かくなる
それは自分が彼を好きだからそう見えるのだろうか
視線を斜め下に移すと、ラディッツに寄りかかって眠るベジータが見える
ベジータはどこか子供っぽい印象を受ける寝顔だった