第1章 第1章 開幕
今、自分が置かれている状況ををいまいち理解出来ないでいる。
もしかして、自分はもう家に帰っているんじゃないか。また、自室で眠ってしまったんじゃないか…。
これは夢。帰り道に十二大戦の事を考えていたから、夢に影響した。
そうであってほしい。でなければ、今の状況を自分の中でどう折り合いをつけろというんだ。
…無理。それ以外考えられない。
いや、考えたくない。
「ははは。お嬢さん、これは現実。夢でも幻でもございません」
何処にそんな確信がある。夢なら尚更聞きそうな台詞じゃないか。
しかし、今彼の存在を否定しても、夢は夢のまま、覚める時まで覚めないんだろう。
そう思えば、気も少しは楽になるもんだ。
「…もし、それが本当だったとして、私に何のよう?」
「はい。先程も申しましたが、貴方様の願い。本当に叶えてみませんか?」
「残念だけど、それは不可能じゃないかな。起きてしまった事は変えられないし、ましてやあれは本のーーー
「『たったひとつの願い』」
……え」
その瞬間、この場所は無音状態になった。静寂という言葉では足りないほど、少し恐ろしく思えるほど、無音。その言葉でしか言い表せなかった。
「貴方様は持っているじゃありませんか。『どうしても叶えたいたったひとつの願い』事を」
「……」
確かに、無いと言えば嘘になる。
だが、〝それ〟は願う以上の事を許されていない。
許されちゃいけないのだ。
でないと、私と彼らの境界線が、世界が成立しないのだから…。
だからこそ、表情を変えず、あえて彼の目を見て言う。
「…何が目的?こんな何処にでもいる、戦闘能力の無い人間に目をつけて、何になるっていうの?」
彼への対抗心なんて、彼と出会って数分。全く薄れていない。それどころか、さっきより増しているようにも思える。
だが、絶対に顔には出さない。
それだけが、今自分に出来る最大限の彼に対する抵抗だった。
そうも知らずに…いや、知っているんだろう。彼には全てがお見通しなんだ。…そんな気がしてならない。
彼は私に近づき、私の手を取り、私の目を見て言った。
「いえいえ。お嬢さん、貴方様は素晴らしい力をお持ちです。それにまだ気づいていないだけなんですよ」
その時、初めて自分は表情を変えた。
「ですから。私が手伝って差し上げましょう」
貴方様の復活をーーー。
![](/image/skin/separater25.gif)