第5章 学園
「…構うな、なんて嫌だ…私はスザクさんと仲良くなりたいもん」
「え?」
「これ、ただ洗ったんじゃ落ちないでしょ?私クレンジングもってるから持ってくる」
「ちょ、ちょっ、と!カナ!」
歩き出すカナの腕を掴んで、足をとめさせた。はっとする。
カナの細い肩が小刻みに震えている。顔を見られないようにと俯いてみせるが、ぽたぽたと地面に零れ落ちる涙。
「カナ……?」
「いやだ…ごめんなさい…ごめ、スザク…」
溢れる涙を止めようと、謝罪の言葉を繰り返しながら、何度もこすってみるが、赤くなるだけで一度溢れ出た涙はなかなか止まらない。
自分の醜態をみられたくて、カナはスザクに背を向けた。
「カナ…」
「こんなのおかしいよ…なんで、スザクは、悪くない、んだからね…スザクは…誰よりも優しくて、いい人なのに…」
自分のことで泣きながら、喘ぐように必死になって慰めの言葉を紡ぐカナが
とても愛おしく見えて、スザクは何ともいえない気持ちになった。
「君は本当に…」
その後の言葉を飲み込んで、スザクは震えるカナの肩を抱き、優しく自分に引き寄せた。
抱き込んだカナの体は自分よりもずっと華奢で、腰に回した腕に力をこめたら折れてしまうのではないかと思う位だった。
それがとても愛おしく思えて、スザクは引き寄せられるようにカナの長い髪に頬を寄せた。
懐かしい香がした。
飲み飲んだ言葉を口の中でつぶやいた。
君は本当にカナに似ているーーー
目の前の少女に触れることで、より一層思いの色が強くなる記憶の中の人物を、
スザクはカナを抱きしめながら、思い浮かべたーーー