第17章 失った記憶、失くならない記憶
「未来さん、遅いですね。迷ってるのかな」
「似たような襖ばかりだから、分からなくなったのかも。晴太、悪いけどちょっと見てきてくれないかい?」
「いいよ!」
新八と日ノ輪の会話に勢いよく返事をした晴太へ声をかけたのは銀時だった
「あ、僕が行ってきます」
「でもせっかくの主役に…悪いわよ、銀さん」
「お酒が回ってきて、涼しい風にも当たりたいので」
「そう?じゃあよろしくね、銀さん」
銀時が廊下を歩いていき、その足音が聞こえなくなると日ノ輪は嬉しそうな悲しそうな微笑みを浮かべる
「まさか銀さんが未来さんを探しに行くって言うと思わなかったですけど…。どうかしましたか、日ノ輪さん?」
「人の想いってのは複雑に絡んで難しいもんだねえ」
「吉原の太陽と呼ばれる日ノ輪さんでも、そんな風に思うんですか?」
「男と女のことなんて、いつまでたっても分からないことだらけよ。誰かの想いが報われれば、誰かが涙することもある、そしてその涙を乗り越えていく。その繰り返し…。生きていれば、楽しいことばかりじゃないけど、悲しみを超えた先に笑えれば上々じゃないかい?」
「そういうものなんですね…」
日ノ輪の言葉を理解するには、新八にはまだ難しいようだった
ただ気づいたのは、銀時の背中を見送るときは嬉しそうな笑顔だった日ノ輪が、月詠のことは切ない瞳で見つめている
「大人は複雑ですね…」