第17章 失った記憶、失くならない記憶
「ごめんなさい、痛かったよね」
気持ちを誤魔化すように、俯きながら銀時から離れようとする未来
離れていこうとする未来の身体に銀時は腕を回した
「あなたのことが気になって、何も手がつかないんです。いつもあなたのことを考えてしまう…。僕が記憶を失くしたと聞いた時のあなたの寂しそうな横顔が、いつまでも頭に残っています。それでいて胸が苦しい」
「銀ちゃん…」
「気づくと屯所に辿り着いてました。あなたに会いたくて、自然と足が向いていました」
ゆっくり身体を離すと、未来の頬へ丁寧に掌を添える銀時
「まだ何も思い出せないのに、あなたのことはもっと知りたいと思ってしまう。あなたに関しての記憶が戻らないことに苛立ってしまう。だから今日、あなたのことが知りたくて会いに来てしまいました」
「銀ちゃん…っ」
ポロポロと溢れ落ちていく涙を拭き取る銀時の指先
まばたきの仕方
視線の運び方
その仕草一つ一つに記憶をなくす前の銀時の名残を感じさせる
記憶にない未来を銀時は潜在意識で求めている
「あなたの側にいると心が落ち着きます。あなたをこうして腕の中に収めるととてもしっくりきます。これはきっと、僕の記憶なんでしょうね。あなたは僕にとってとても大切な存在なんだと、記憶がなくても分かります」
「………っ」
銀時からの言葉一つ一つに未来への思いやりを感じて、声が喉の奥で熱くなる
「でも…これ以上触れるのは、記憶を取り戻してからにします」
未来の視線を受け止めながら言葉を続ける
「これ以上は、"記憶のある僕"がきっと怒ると思うので」
何度も見てきたあの意地悪な顔をする銀時
そう言いながらも、頬に添えている手は離れていかない
「記憶をなくしても、銀ちゃんは銀ちゃんだね」
なにも思い出してはいない
それでも少しだけ銀時の名残を感じて、銀時の手に未来も手を重ねる
「ねえ、銀ちゃん。試しに万事屋を続けてみるっていうのはどう?その方が記憶を思い出すきっかけは多くあると思うの」
「でも、もう自堕落な生活は…」
「実は…、もう仕事の依頼受けちゃったんだよね」