第19章 番外編 両手のぬくもり
2人は前を向いて歩いているから、きっと気付いていない。
黙ったままそっと2人のズボンのポケットへとそれぞれ両手を近づける。
『えいっ。』
「つめてっ!!」
「わっ。」
掛け声とともに、2人のポケットへとそれぞれ両手を突っ込んでみた。
あぁ、研磨とクロちゃんの手で温められたポケットの中はとっても温かい。
『あったかーい。』
「びっくりしたじゃねーか。」
「の手凄く冷たい。」
『だって寒いんだもん。あー2人ともお手てあったかーい。』
クロちゃんも研磨も、ビックリさせてしまったけれどポケットから私の手を追い出すようなことはしないでいてくれる。
それどころか、私の手をぎゅっと握ってくれる。
2人とも親指で私のてを撫でてくれているのは、もっと温めようとしてくれているんだろうか。
相変わらずの優しい2人に嬉しくなって思わず笑みがこぼれる。
寒くて寒くて、すっかり冷えていた私の手は、2人の体温に温められてどんどんとその冷たさをなくしていく。
冷たくなった手に意識がいかなくなると、どうしても他ごとを考えてしまうようになるもので。
この震えるほどの寒さもあと数か月すれば過ぎ去ってしまうのかと思うとやっぱり少し寂しくなる。
この寒さが終わるということは、クロちゃんが卒業して高校へと進学してしまうということだから。
こうして3人で並んで通学するのも、あと少し。
こういう時、どうしてせめて研磨と同い年に生まれていなかったのかと思ってしまう。
そうすれば、もっと3人で同じ学校にいられる時間は多かったのに。
小学校から中学校に上がって、それでも研磨もクロちゃんも私と一緒にいてくれた。
でも、クロちゃんが高校生になってしまったら、それでも一緒にいてくれるんだろうか?
通りすがる見知らぬ高校生を見ると、どうしても自分たちよりもとても大人に見えて。
きっとクロちゃんもすぐその仲間に入ってしまうんだ。
こんな小さくて、子供っぽくて、手のかかる私なんて、どうでもよくなってしまうだろうか。
3人でいる時間が長かった分、どうしても1人でも欠けてしまうということが、寂しく感じてしまう。
3人で一緒に学校に通えるこの1年は、本当に楽しくて貴重な1年だったんだ。