第19章 番外編 両手のぬくもり
「?…どうしたの?」
『ふぇっ?』
「どうした俯いて。体調でも悪いのか?」
『え?あの、えーっと。体調は大丈夫っ。元気っ。…でも。』
「でも?」
『クロちゃん、もう少しで卒業でしょ?…3人でこうやって学校に行けるのもあとちょっとだなって思っちゃって、寂しくなっちゃった。』
ポケットに入れた手が温かくなれば温かくなる程、もう少しでこうして一緒に歩いて通学できなくなるというその寂しさが心を襲ってくる。
こんなことクロちゃん達に言っても、時の流れが止められるわけでもないのに、困らせてしまうのに。
『うー、ごめんなさい。卒業も、高校に行くことも嬉しいことなのに。』
もっと私が大人だったら、こんなに子供みたいなこと思わないんだろうか。
寂しいと思う気持ちが、無意識に2人の手を握る手を強めてしまう。
こんなわがままなこと言ったら、2人ともいやな気持になるかな。
そう思うと、俯いて顔を上げられない。
余計なことを言ってしまったかなと、後悔していると急に隣からクロちゃんの大きな笑い声が聞こえてきた。
「ぶひゃひゃ!ちゃん本当俺のこと好きね。」
『えっ。そ、その、すっ、好きだよっ、もちろん。』
ぶひゃひゃと大きな声で笑うクロちゃんに、変なことを言ったのだろうかと急に恥ずかしくなる。
絶対に赤くなっているだろう顔を隠したいのに、ポケットに入れた手は2人が握っていてとても離れそうにない。
「俺が高校に行っても、ちゃんのお世話させてちょーだいよ。
てーか、寂しがり屋の放っておけるわけないでしょ。」
『ほ、ほんとっ?』
「お?おーホントホント。」
いつもなら、子供扱いしてるんでしょって思ってしまうのに、まだ一緒にいてくれるんだとそう思ったらそんなことどうでもよくなってしまって。
だから、怒ると思った私が喜んでいるのを見てクロちゃんは驚いている。驚いたように目を見開いて、でもその後に、ニヤニヤした顔じゃなくて、優しい笑顔を向けてくれて頭までぽふぽふと撫でられる。
嬉しくなって、ふふっと笑っていると隣を静かに歩いていた研磨の顔が私の顔の目の前に現れた。
突然の事にびっくりしていると、今度は研磨が頭をぽんぽんと撫でてきた。