第19章 番外編 両手のぬくもり
『5時っ?』
「そりゃもう朝じゃねーか。」
「どうしても素材集めきりたかったし。」
『研磨大丈夫?今日も部活あるよ?』
「んー、慣れてるから大丈夫。」
「慣れるなっての。」
『今日の夜はちゃんと寝なきゃダメだよ。』
「ん、わかった。」
眠そうな研磨をじっと見上げると、視線が合って研磨がふわりと笑う。
心配だけど、ずっとゲームしちゃったのは研磨だし、どうもしてあげられない。
研磨が慣れてるし、と言った通り確かに夜更かしして眠そうに目をシパシパしている光景はたまにみられる。
今日の部活の時は、万が一研磨が倒れちゃったりしないようにしっかり様子を見ていようと心の中で静かに決意する。
『んーそれにしても、本当に寒い。』
会話が少しでも途切れるとやっぱり寒いという言葉がついつい口から出てしまう。
すっかり指先から手のひらまで冷たくなってしまった手を、せめて少しでも温めようと口元に手を移してはぁーと息を吹きかける。
白くモヤモヤと吐き出された息は少しだけ暖かい風になって手を温めるけれど、気休めにもならないみたいだ。
手をすりすりとこすって摩擦で暖かくならないかなと悪あがきしてみるけれど、やっぱり手は冷えたまま。
「いつもの手袋どうした?あのふわふわしたやつ。」
『昨日外で落としちゃってね、汚れちゃったからお洗濯してもらってるの。』
そうなのだ、いつもは指先が冷たくならないように手袋をしているのだけれども、寒い今日に限ってお洗濯中なのだ。
今日は寒いとわかっていたのに、なぜ昨日に限って落としてしまったんだろう。今日の朝乾いていないかなと少しの望みを持って確認してみたけれど、やはり冬というのは乾きにくいらしく、まだ少し湿っていた。
『お手てが冷たいっ。』
うーっと、どうしても耐えられずに声を上げながら何もしないよりはと手をすりすりともう少し擦ってみる。
それでもやっぱりあまり暖かくはならない。
どうしたものかなと思っていたときだった。
ふと目に入った二人のズボンのポケットに入った両手。
あぁ、もしかしてあのポケットの中はとっても暖かいんじゃないだろうか。
気になってしまったら、どうしても確認してみたくなってしまった。