第19章 番外編 両手のぬくもり
クロちゃんの大きな手が、私の頬のすぐ側を通り過ぎる。
『ふふっ、くすぐったい。』
「こーら、動くなよ。」
『はーい。』
巻き終わるまで大人しく待つ。
ゴソゴソと後ろで綺麗に結ばれたマフラーは、私が家を出るときよりも綺麗に巻かれているような気がするけれど、悔しいから気付かないふりをする。
「おら、出来たぞ。」
『ありがとー。』
マフラーが巻き終わると、クロちゃんにポンポンと頭を撫でられる。
元から大きかったけれど、ここ1、2年で更に大きくなったクロちゃんを振り向いて見上げると、視線が合ったクロちゃんがふわりと笑った。
カチャリと音がして、その音のした方を振り返るとリビングからのそのそと研磨が出てきたところだった。
その出てきた研磨の顔を見ると、やっぱり相変わらず眠そうだ。
『2人ともいこー。』
3人で揃って、リビングにいる研磨のママに行ってきますと声を掛けると、中からいってらつしゃいと声が聞こえた。
その声を聞き届けてから、クロちゃんが研磨の家の玄関に手をかける。
玄関の扉をを少し開けただけで冷たい空気が中に入ってくる。
うぅ寒い。
お正月も過ぎ、雪こそ降っていないけれど気温は氷点下に届きそうな程寒い。今年の冬は寒いとテレビでやっていたのを思い出して尚更寒くなる。
中学校に入学して、初めは慣れなかったこの通学路にもすっかり慣れた。その歩き慣れた道を3人並んで歩く。
見上げた空は青いけれど、暖かい時とは違い何故こんなにも寒々しく映るのか。
はぁーと自然と漏れた息はやっぱりモヤモヤと目に見える程白い。
『さむいー。』
「さっきから寒いしか言ってねーな。」
『うー、だって寒いんだもん。ねー、研磨も寒いよね。』
「……んー、寒い。」
『クロちゃんは寒がりじゃないからわからないんだよ。』
寒さに縮こまって歩く私と研磨をよそに、スッと背筋を伸ばして歩くクロちゃんを見上げた。ニヤニヤといつもの笑みを浮かべるクロちゃんは全然寒そうに見えない。
反対に目を移すと、いつもの猫背で歩く研磨はというとやっぱりとても寒そうだし、それに今日はとても眠そうだ。目が全然開いてない。
『研磨?本当に眠そうだね。昨日何時に寝たの?』
「5時。」