第19章 番外編 両手のぬくもり
『わわっ。』
研磨に名前を呼ばれたなと思ったと同時に腕を掴まれて引っ張られてしまった。
不安定な格好をしていたからか、あっさりと研磨のいるベッドの上へとバフンと音をたてて倒れこんでしまった。
研磨のかぶっていた布団を私の上にまでバサッと掛けられる。
寝ぼけているのかそうじゃないのか。
いっしょに掛け布団の山の中に入ってしまった。
「まだねむい。」
研磨はそう言うとぎゅっと抱き着いてきた。
このままではだめだと、自分に掛けられた布団をどける。
暖かい布団は名残惜しいけれどそろそろ出発の時間だ。
『研磨起きてよー。クロちゃん来ちゃうよ。』
「んーー。」
研磨の腕を外して、ベッドから起き上がって研磨の腕を引っ張る。
んー、重くてなかなか起き上がらない。
ぐいぐいと腕を引っ張っていると下から玄関の開く音が聞こえた。
「オハヨーゴザイマース。研磨っ、行くぞー。」
『あーほらクロちゃん来ちゃったよ。早く行こうよー。』
「んー。···わかった。」
やっと起きる気になってくれたのか、研磨がのっそりとした動きでベッドから起き上がった。
髪がグシャグシャだ。
研磨の頭に手を伸ばして、綺麗な黒い髪を手櫛で整える。
そうすると、研磨の手も私の頭に伸びてきた。
「、髪、ぼさぼさ。」
『研磨がお布団掛けてくるからー。』
「…ごめん。」
研磨はポソリとそう呟くと、私の頭を撫でるようにして、髪を整えてくれた。
『クロちゃん待ってるから早く行こっ。』
そう言って研磨の手を引くと、大人しくのそのそと着いてきた。
階段を下りて研磨はいったんリビングへ。
私はクロちゃんの待つ玄関へ。
『クロちゃん、おはよー。』
「はよー。おせーぞー。」
『だって研磨が全然起きてくれないの。』
「またか。…ん、、マフラー取れそうになってる。直してやるからこっち来い。」
『うん。』
クロちゃんに支えられた手にそのまま身を任せて、クロちゃんに背を向ける。
マフラーが外されて一瞬首元がヒヤッとしたけれど、すぐにまた暖かいマフラーが首をくるりと覆った。