第19章 番外編 両手のぬくもり
『さむいっ』
ガチャリと音を響かせて、たった今出てきた自分の家の玄関の扉が閉まった。
吸い込む空気が冷たい。
はぁーっと息を吐き出してみると、白い靄となって空に消えていく。
沢山着込んできたけれど、やっぱり肌が外気に触れているところが寒い。
これから学校へ向かうのに歩いていかなくてはいけないのだけれど、毎日のこととはいえどうしてもこの寒さは慣れない。
もともと寒いのは苦手だ。
とにかく今はこの寒さから少しでも早く逃げたくて、隣の家へと慌てて向かう。
いつも通り、弧爪と書かれた門扉を抜けてガチャリと玄関を開ける。研磨のパパがお仕事に行くときに鍵を開けておいてくれるので、いつもそのまま玄関を開けられるのだ。
おはようございまーす。と中に入りながら声を掛けると中から研磨のママの返事が聞こえる。
荷物を玄関に置いて中に入ってリビングに行くと、エプロンを着ている研磨のママの姿がそこにはあった。
「ちゃんおはよー。いつもありがとね。」
『うん。研磨ママ、研磨は?』
「さっき朝ご飯は食べたんだけど、それから上に上がって降りてこないの。見てきてくれる?」
『はーい。』
リビングを出て階段を上って研磨の部屋に向かう。
小さな頃から毎日訪れているこの家はもう勝手知ったるものだ。
いつも通りのこの日常が幸せだといつも思う。
こんな風に、研磨の様子を見に行くことも私にとってはなんだか幸せなことなのだ。
研磨の部屋の扉を開けて、コッソリと中を覗いてみる。
部屋の中はとっても静かだ。
視線を巡らせると、研磨はやっぱりお布団の中。それもすっぽりと掛け布団を被ってしまっていて、ベッドの上に大きな山が出来ている。
部屋に入って、掛け布団をこっそり少しだけめくってみる。
制服ももう着ているし、すっかり上着もマフラーまでして出かける準備は万端のように見える。それでも布団の中に入ってしまったのかと少し笑いがこぼれる。
少しめくっていた布団をもう少しめくってみて、研磨の顔をのぞく。
やっぱり寝てる。
『けーんーま。』
ちょんちょんと指でほっぺをつついてみると、んーという声とともに研磨の目が開いてこちらを見上げた。
「…。」