第4章 雪上の氷壁 【上杉謙信】
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それからの茅乃はというと、何をしたらよいのか分からず部屋の中でぼおっと座って一日を過ごしていたようで……
見兼ねた連中が着物や書物、菓子などをいくつか差し入れるも、どれを選んだらいいのかと悩むばかり。
それどころか厠や湯浴みに行く時すらいちいち人に許しを得てからでないと行動できない始末だ。
「───それは?」
ある日回廊を歩いていた際、茅乃の身の回りの世話をしている女中と通りすがら出くわす。
持っている膳には、僅かしか手の付けられていない夕餉が乗っていた。
「随分と残っているようだが」
「茅乃様はいつも途中で食事をやめてしまいますので…」
「口に合わないと言っていたのか?」
「いえ、そうではないみたいです。
私も理由を尋ねてみた事があるのですが…“言いつけ”だと仰られて…」
言いつけ、だと?
俺は食事制限を命じた覚えはない。
それにあれ以上痩せてどうする気なのか。
普段なら他人の食事情など放っておくが、己の足は自然と茅乃の部屋へと向かっていた。
「……。
一体何を言うつもりだ、俺は」
いざ襖の前まで来たものの、なんと声掛けすればいいものか……
ちゃんと飯を食え、なんてわざわざやって来てまで言う事か?親でもあるまいし馬鹿馬鹿しい。
だがしかし……
「……っ、う…うぅぅ……」
あれこれと葛藤していると中から呻き声が聞こえてきて、何事かと戸を開いた。