第4章 雪上の氷壁 【上杉謙信】
不可解な命令だ、と疑問を感じていると。
茅乃は、一人一人の顔色を窺うように周りを見渡した後……
「私は、貴方がたに謀反を起こした張本人の妻。言動を疑われても仕方がありません。
───なんなりと罰を与えて下さいませ」
そう言って、畳に頭がつくほど深く平伏した。
「お前が知らぬ存ぜぬを通す以上、拷問したとて無駄骨だ。
このまま人質として暮らしてもらう」
俺の言葉に口答えする事なく、少し間を置き「はい」とだけ返事をするとゆっくりと起き上がる。
決意を持って罰を受けようと申し出たにも関わらずあっさりと引き下がる様子に、また違和感を覚えた。
まあしつこく粘られるよりはマシだが……
「上杉様のご厚意、ありがたく頂戴致します。
しかし…私はここでどう毎日を過ごしていけばいいのでしょうか。
掃除以外で何かお手伝いできることはありますか?」
「気遣いは余計だと言ったはずだ」
「申し訳ありません。…では、どうすれば…」
「どうもこうもない。自由にしていればいい」
「自由……?」
きょとんと目を丸くした茅乃は、首を傾げて何やらしばらく考えている。
「自由…とは具体的に何をすればいいのですか?」
何を言っているのだこの女は。
「自由は自由だ、好きな事でもして過ごせ。
具体的に何をやれと命じられるのは自由とは違うだろう。勿論、逃亡するという選択はさせられないが」
「そうですか…。難しいですね、自由って…」
自由に難しいも易しいもあるまいに、更に考え込んでしまったようだ。