第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
一連の様子を、離れた位置から見守る二つの影───。
ほっと胸をなでおろした老女は、構えていた火縄銃を静かに下げる。
その傍らでは、口元に弧を描いた男が馬上から眺めていた。
「その構え…。まだ腕は錆びついてないようだな、菊江」
「光秀様は買いかぶり過ぎですよ。私はもうただの年寄りでございます」
「ふ、謙遜するな。女だてらに狙撃の名手と謳われ、俺に砲術のいろはを仕込んだのはそなたであろう?」
「懐かしいですね、あの頃が。
しかしもう昔々の事でございます故…。忍びの生業からはとっくに足を洗っておりますし」
「便りが届いた時は驚いた。現役時代の隠れ蓑として扮していた女中の仕事を本業にしていたとは。
そして今や姫様に仕える侍女だ。出世したな」
「ええ、お陰様で。
──茅乃様は我が子のようなもの。赤子の頃からこの手で育て上げてきたのです。……だから相応しい殿方のところへ嫁いでほしかった」
「相応しい…、か。
確かに御館様にとっても、あのくらい芯の強い娘が合ってるかもしれん」
茅乃が疑っていた通り、密かに手を組んで縁談を計画していた光秀と侍女は、くすりと微笑み合うとその場を後にした。────