第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
群がる男達を次々に斬り払っていく、広い背中。
力強い太刀捌きであっという間に一掃してしまったその人は、ゆっくりとこちらを振り返った。
紛れもなく、そこにいるのはずっと追い求めていた彼だ──。
「信…長様…」
「大事ないか、茅乃」
「わ…私は平気…よ。…それよりも…貴方、捕らえられていたはずでは…」
「残党共の根城や動向を探る為、一時的にな。
──だが全て壊滅させた。策を弄したとて、この俺を手にかけるなど誰一人出来まい」
あまりにも急な展開に驚き立ち尽くしていた足が、がくがくと小刻みに揺れだした。
緊張の糸が切れたせいか、収まっていたはずの震えがまた襲ってくる。
すると、そっと引き寄せられ……
「無茶な真似をしておいて、何が平気なのだ。もう虚勢を張る必要はない」
「……っ、」
温かな腕の中……
目頭が熱くなって、堪えきれずに溢れ出た涙で信長様の顔が霞む。
恐怖心が和らいでいくのを感じていていると、そこへ……
「信長様!助けて頂いてありがとうございます…!茅乃さんも無事でよかった…本当によかった」
「舞、貴様も事なきを得たようだな。道中で引き離された時はさすがに肝を冷やしたが」
駆け寄ってきた舞と信長様のやり取りと見た私は、慌てて腕の中から離れようとした。
「信長様、私はもう大丈夫だから舞を介抱してあげて。貴方達の邪魔はしたくないの」
「…? 邪魔、とは?」
「二人は想い合ってる仲なのでしょう。だからこれ以上邪魔するのは…」
すると、深いため息が頭上から聞こえてきて。
「貴様はとんだ勘違いをしているようだ。
舞と深い関係にあるのは俺ではなく───」
くい、と顎を使って示した先にいたのは……
「秀吉さん……っ!」
「舞……!」
信長様を追って来たのであろう秀吉様が茂みから現れ、その姿を見つけるや否や走り出した舞が彼の胸に飛び込んでいく。
熱く抱き締め合う二人……
「まさか…でしょ…」
──ああ、なんて壮大な勘違いをしてしまっていたのかしら。
馬鹿ね、私ったら…
でも…大切なものを守れてよかった。
張り詰めていた気がふっと一気に抜けて意識を失っていく途中、私はそんな事を考えていた───。